、内山という名選手、当然優勝すべき本命選手が、車の接触か何かで反則し、除外されることによって起ったものだ。
 これが八百長か、どうかは、私に判定のつくことではないが、すくなくとも、本命自身が反則を犯して除外される、というような場合には、観衆はこれを八百長と判断し易いのは当然なことで、なぜなら、大多数の正直な観衆は本命をタヨリに車券を買っており、そこに盲点のあろう筈はないから、ハッキリしている本命が反則したり負けたりすると、偶然の事故にしても、八百長と判じがちなのは自然の情であり、イキり立つのもムリがないのである。
 しかし、本当の八百長は、観衆の盲点をついて、巧妙に行われているものだ。私の見たレースから二三の例をひいてお話してみよう。
 次のようなレースがあるとする。人名は分り易く二人の有名選手の名をかりたが、この二人は八百長をやる人ではない。二千|米《メートル》。

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フォーカス番号 番号 姓名   人気
1       1  白太郎  入着ノ見込ミアリ
2       2  田川博一 対抗。アルイハ一着
3       3  赤二郎  マズ見込ナシ
4       4  黄三郎  油断ナラヌ。穴
        5  青四郎  コレモ曲者
5       6  小林米紀 本命。マズ負ケマイ
        7  黒五郎  マズ見込ミナシ
6       8  緑六郎  新人ナガラ曲者
        9  橙七郎  古強者。戦歴アリ
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 競輪の小林といえば、横田と並んで、二大横綱。レースを棄てない名選手でもある。これを本命とみるのは当然。次に、田川、これ又、名題の名選手で、対抗は充分である。
 一番の白太郎、四番の黄三郎なども曲者だが、小林、田川は対抗するとは思われないからフォーカスの本命は
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5−2[#「5−2」は縦中横]
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 か、又は、その裏の
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2−5[#「2−5」は縦中横]
[#ここで字下げ終わり]
 であり、車券の大多数はそこに集る。そのほかに、穴として、
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5−4[#「5−4」は縦中横]  5−1[#「5−1」は縦中横]  2−4[#「2−4」は縦中横]  2−1[#「2−1」は縦中横]
[#ここ
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