自由は許さない。批判も許されない。
 共産党ぐらい矛盾したことを平然と述べたてる偽善者はいないだろう。彼らは人間の解放だとか個人の自由を説いているのだから笑わせる。日本共産党自体が、コミンフォルムに対して、すでに自己の自由を失っているのではないか。独自の見解を立てれば、マルクス・レーニン主義の原則によって批判され、除名され、アゲクは、武力的に原則に従わしめられるのがオチだ。私が彼らを軍人になぞらえたのは至当だろう。軍人も、命令を批判することは許されない。それがマチガイと知っても、服従の義務あるのみであった。
 ソビエットは知性の低い国だ。それはナホトカから帰還してくる人々への彼らの教育の仕方を見れば一目瞭然だ。
 私は、しかし、まるで敵前上陸するような憎悪をもって祖国へ帰還する人々を罵ろうとは思わない。彼らは悲運であっただけだ。
 彼らは元々平和な庶民として育った人で、戦争などが好きな筈はなかったろうが、農村や工場や学校から否応なしに戦野へかりだされて、国民儀礼だの、服従、忠誠などを、ビンタの伴奏で仕込まれた人たちだろう。
 国民儀礼の代りにインターナショナルの合唱を、天皇の代りにスタ
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