と八紘一宇が世界を征服するなんて、そんな茶番が実現されては、人間そのものが助からない。私の中の人間が、八紘一宇や国民儀礼の蒙昧、狂信、無礼に対して、憤るのは自然であったろう。
私の希望がフシギに実現して、軍人と八紘一宇と国民儀礼が日本から消え失せてしまったが、人間が復活、イヤ、誕生してくれるかと思うと、どっこい、そうは問屋が卸さない。
国民儀礼の代りに赤旗をふってインターナショナルを合唱し、八紘一宇の代りにマルクス・レーニン主義を唱えて、論理の代りに、自己批判という言葉や、然り、賛成、反動、という叫び方だけを覚えてきた学者犬が敵前上陸してきた。
天皇は人間を宣言したが、一向に人間になりそうもなく、神格天皇を狂信する群集の熱度も増すばかりである。
どっちへ転んでも再び人間が締め出しを食うよりほかに仕方がないという断崖へ追いつめられそうになってきた。
米ソの対立とか米ソ戦ということについては、私にはとても見当がつかない。なぜなら、原子バクダンという前代未聞の怪物が介在して、在来の通念をさえぎっているからである。
けれども、二大国の対立が不発のままで続くことによって、その周辺の小
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