ムキであり、純情ではあるが、私はこういう理知の足りないピント外れのものは好ましく思わない。
 園田氏は太々しく、一向に純情なところがなく、この恋愛を利用することを主にしているが、私は因果モノ的にヒタムキな純情よりも、園田氏の計算的な方を、むしろその理知的の故に、とるものである。
 しかしながら、恋愛というものは、むしろ計算の念がない方が勝利を占めるのである。これを政治的に利用することを考えず、恋愛一途に生きぬこうとする方が、結局、政治的にも勝利を占めることになるのである。
 イギリスの前皇帝の場合を考えてみたまえ。帝位をなげうって恋に生きる。まことに明朗で、誰もこのお方を軽蔑などしない。むしろ万人の敬愛をうけるであろう。
 恋愛とは、こういうものだ。
 あとで失敗してもかまわないものだ。帝位を投げうとうが、妻子亭主をなげうとうが、それ自身ヒタムキであれば救われる。少数の道学者はとにかくとして、多くの凡人はこれに対して決して不快を感ぜず、むしろそのヒタムキの故に、敬愛の念を寄せてくれるものである。
 園田氏が、もし、もう何級か上の、第一級の政治家であるなら、こんなケチな術策は弄せず、ヒタ
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