なってから起ることで、単にアドルムをのんでるうちは、こうはならない。
 私は単に睡るためにアドルムを用い、常に眠りを急いでその為のみに量をふやす始末であったから、気がつかなかったが、アドルムをのむと愛撫の時間が延びるという。これは田中が書いている。田中は睡るためでなく、酔うためにのんだアドルムだから、そういう経験に気付いたのであろうが、あの薬の酩酊状態はアルコールと同じで、アルコールよりも強烈なのだから、そういう事実が起るのは当然かも知れない。
 ある若い作家の小説にも、たくましい情人に太刀打ちするのにアドルム一錠ずつのむというのがあったが、してみると、その効能は早くから発見されて、ひろく愛用されているのかも知れない。
 先日、田中英光の小説を読んで感これを久うした含宙軒師匠がニヤリニヤリと、フウム、あの薬をのむと、勃起しますかなア、とお訊きになったが、勃起はどうでしょうか。私は中毒するまで気がつかなかった。完全な中毒に至ると、一日中、勃起します。しかし、もうその時は、歩行に困難を覚え、人の肩につかまって便所へ行くようなひどい中毒になってからで、これでは差引勘定が合わない。人の肩につか
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