る。
 私自身も、自分では眠るためだと思っていたが、いつからか、その酩酊状態を愛するようになっていた。
 催眠薬は、一般に、すべて酩酊状態に似た感覚から眠りに誘うが、アドルムは特にひどい。先ず目がまわる。目をひらいて天井を見れば天井がぐるぐるまわっている。
 私は中学生のころ、はじめて先輩に酒をのませられて、いきなり部屋がグル/\廻りだしたのでビックリしたが、そんなことは酒の場合は二度とはない。ところが、アドルムは、常にそうだ。
 私は若いころスポーツで鍛えたせいか、足腰がシッカリしていて、酒をのんでも、千鳥足ということが殆どない。ところが、アドルムは、テキメンに千鳥足になる。
 頭の中の感覚が、酒の酩酊と同じようにモーローとカスンでくるのであるが、酒より重くネットリと、又、ドロンと澱みのようなものができて、酒の酩酊よりもコンゼンたる経過を経験する。睡眠に至るこの酩酊の経過が病みつきとなり、それを求めるために次第に量をふやして、やがて、中毒ということになるらしい。私はそうだった。
 いったん中毒してしまうと、非常に好色になり、女がやたらに綺麗に見えて、シマツにおえなくなる。これは中毒に
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