金の言い訳はできない。福田恆存が税務署へ税金をまけてもらいに行こうとしたら、隣家の高田保が、
「自分の税金のことは云いにくいものだから、ボクが行ってきてあげよう」
 と、たのみもしないのに、こう言って出かけてくれたそうだ。さすがに保先生は達人で、まったく、保先生の云う通りのものなのである。
 困った時には友達にたのむに限る。私が二度目の中毒を起したとき、私は発作を起しているから知らなかったが、女房の奴、石川淳と檀一雄に電報を打って、きてもらった。ずいぶん頼りない人に電報をうったものだが、これが、ちゃんと来てくれて、檀君は十日もかかりきって、せっせと始末をしてくれたのだから、奇々怪々であるが、事実はまげられない。平常は、この人たちほど、頼りにならない人はない。檀一雄は、私と約束して、約束を果したことは一度もない。たぶん、完全に一度もないが、本当に相手が困った時だけ寝食忘れてやりとげるから妙だ。
 田中英光の場合は、友だちに頼めば、なんでもなかったのである。その友だちが居なかった。
 私自身が田中と同じ中毒を起こしたことがあるから、よく分るが、孤独感に、参るのである。ほかに理由はないが、孤
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