おかげで高麗川の河原を橋をさがして、ブラリブラリと歩いたが(橋を探して河原をブラリブラリというのは奇妙な道の迷い方だが、そこがコマ村だから仕方がない)だがコマ川は実に流れの美しい川だ。深山幽谷ならともかく、山から平地に出がかったところに、こんなにキレイな流れを見たのは生れてこのかた始めてだ。河床にしきつめた小石の粒々がみんな美しいのだが、透きとおるような流れの清らかさのせいもある。グルリ/\とコマ村中を廻転また廻転している流れであるが、どこで見ても冴えた清らかな流れには変りがない。
 背後にひかえる正丸峠と云っても、秩父の山々の末端に当る低山であるし、側面から前面にまわるコマ峠の峰つゞきも百|米《メートル》に足らないような連丘にすぎない。その連丘にはさまれた小盆地をコマ川が精一パイ蛇行している。実に変テツもない山近い農村風景。すべては平凡な風景だが、流れに沿うてかなりの農家がありながら、あまりにも美しく冴えたコマ川の流れである。
 ようやくコマ神社に辿りつく。目下獅子舞いは山上の昔の社殿跡に登っているという。ただちに山上へ急ぐ。この山は自然の小丘を利用して円形にけずって古墳に用いた
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