ないからなア。荒々しく悲しく死んだ切ない運命の神様を泣きながら慰めているのかなア」
 私がこう呟くと、
「まったく、そうとしか考えられない」
 檀君も腕ぐみをして考えこんでいるような答えを返した。
 私がコマ村のことで第一番に皆さんにお知らせしたいのは、この笛の音なのだが、音を雑誌に出せないのが痛恨事です。ただ、
「もういいかアーい」
「まアだだよーオ」
 という隠れんぼの呼び声に他のいかなる音よりも似ていることは確かです。
 ところが、この獅子舞はメスの獅子をオスの二匹が取りッこするというけれども、実は隠れたメスを探しッこするのである。つまりやっぱり隠れんぼである。
「もういいかアーい」
「まアだだよーオ」
 という隠れんぼの呼び声は今や全国的であるけれども、その発祥は武蔵野で、武蔵野界隈にだけ古くから伝わっていたにすぎないもののようだ。この獅子舞、笛の音と、ツナガリがあるのではないでしょうか。私はひどく考えこんでしまいましたよ。
 まもなく中野君が若い神官をともなってきた。宮司が不在でその息子さんであった。私たちは若い神官にみちびかれて社務所へ招ぜられた。系図を見たのはこの日である
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