は真剣だし、笛を吹く人たちもキマジメであった。
「明日がお祭りだそうです。今日のはその練習だそうです。なおよく社務所へ行ってきいてきます」
 と、中野君は姿を消した。
 私は目をみはり、耳をそばだてた。私の心はすでにひきこまれていた。その笛の音に。なんという単調な、そしておよそ獅子の舞にふさわしくない物悲しい笛の音だろう。笛を吹いているのは六名のお爺さんであった。
 吉野の吉水院に後醍醐天皇御愛用のコマ笛があったが、それは色々と飾りのついた笛で、第一木製ではなかったような気がする。ここのはオソマツな横笛であるが、笛本来の音のせいか、音律のせいか、遠くはるばるとハラワタにしみるような悲しさ切なさである。
 日本の音律に一番これによく似たものが、ただ一ツだけあるようだ。それは子供達の、
「も・う・い・い・かアーい」
「まア・だ・だ・よーオ」
 という隠れんぼの声だ。それを遠く木魂にしてきくと、この笛の単調な繰り返しに、かなり似るようである。すぐ耳もとで笛をききながら、タソガレの山中はるかにカナカナをきくような遠さを覚えた。
 獅子は舞いながら太鼓をうつ。この太鼓が笛の悲しさに甚しくツリアイ
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