」
「いいえ、その隣りです」
「向う隣りですか」
「こッち隣りです」
「じゃア、飯能じゃないか」
「ハイ。そうです」
よく出来ました、というところ。何扉だか何教室だか知れんが、このへんは日本津々浦々、実にラジオの悪影響ならんか。コマ村のことは何をきいても全然知らんのである。
「あなたは、コマ村の何を知っているのかね?」
「ハイ。コマ村へ行く道を知っています」
飯能の女中サンに完璧にからかわれてしまいましたな。
自動車をよんでもらってコマ村へ出発する。飯能の女中サンに運転を御依頼したわけではなくて、タクシーの運転手もコマ村へ行く道については心得があったようだ。たった十分か十五分ぐらいの平凡な道である。
出発がおそかったので、コマ神社に到着したのは、タソガレのせまる頃であった。
社殿の下に人がむれている。笛の音だ。太鼓の音だ。ああ、獅子が舞いみだれているではないか。
なんという奇妙なことだろう。
「今日はお祭りだろうか?」
自動車を降りて、私たちは顔を見合せたのである。
しかし、お祭りにしては人間の数がすくない。むれているのは概ね子供たちで三四十人にすぎない。だが獅子の舞い
前へ
次へ
全48ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング