ているから若干ロレツもまわらないし、それにともなってお行儀の方も甲や乙や優や良というわけにはいかなかったが、それは整然たるヘルプ紳士のお行儀として失格しているだけのことで、ただの酔っ払いのお行儀としてなら充分見どころがあったのである。塩ガマ神社の裏参道にトグロをまいているだけのことはあって、ヘルプ紳士の荒ミタマあるいはヘルプ紳士のスサノオノミコトというところであった。
 秋田犬保存会長はこういうお行儀のわるいスサノオノミコトではなかったのである。すべてに於てダンチであった。整然たるリンカクに於ても、色の白さに於ても、美しいヒゲに於ても、ヘルプ紳士の最優良種に属していたが、お行儀のよさ、気のやさしさ、物やわらかさ、すべてに申し分のないヘルプ紳士中のヘルプ紳士であった。難を云えば、いささか小柄の点だけだが、色あくまで白く、形あくまで整然たるヘルプ紳士としては、ヨーロッパの貴顕ほどの柄はなくとも、佐々木小次郎から武骨を取りのぞいた程度の柄はもたせたいものであった。もっとも、秋田犬と見くらべざるを得なかったせいで、実際以上に柄が小さく感じられたのかも知れない。
 実に秋田犬と共存共栄して、己れ
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