犬には振り向くこともない。
 去年死んだコリーは牧場で相当期間育ってきたらしく、牛や馬を見ると目つきが変るほど喜んで、親愛の情をヒレキしに走って行ったが、今度のコリーは乳をはなれた時から私のウチで育ったから、牛や羊や馬には愛情を感じる習慣がない。しかし弱者を守ったり誘導する本能だけは生れながらにいちじるしいから、子守には人間の子守以上の確実性が考えられるし、女だけの家族にはこの上もない保護者であろう。
 もっとも、コリーは容姿が雄大で美しいから、御婦人がこれを連れて歩くと御婦人の方が見おとりがする。ボルゾイの美しさはコリー以上だが、コリーには雄大さがある。日本婦人は体格的にすでに甚しく劣勢で、コリーを連れて歩いて見劣りしないとなれば、これを美人コンクールの最終予選にパスしたものと認めてよろしく、ミス・ニッポンの有力候補であろう。五尺五六寸以上の外国婦人の体格がないと、どうもツリアイがとれないようだ。ウチの女房には、これが嘆きのタネである。
 外国種の犬はたいがい利巧で、訓練もきくし、主人をはなれて、一本立ちの行動ができるものだ。そのうちでもコリーは特に利巧な犬であるから、これと小型や中
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