質的には凡そ番犬に適しない。むしろ狩に用いた方がやや効能があるのではないか。私はバクゼンとそう考えるようになった。
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私がこのように日本犬について悲観的な考えを持つようになったのもチャチな日本犬を飼ったせいだ。日本犬の中にも外国種に負けない犬がいるかも知れぬ、ということは私の長い疑いであり、希望でもあった。
こう疑って然るべき理由がハッキリ存在するのである。
皆さんが犬屋で日本犬の仔犬をもとめる場合に、これは何犬ですか、とお訊きになると、たいがい犬屋は、
「秋田犬です」
と胸をそらして答えるのが普通である。こうして今では日本犬といえば、大半が秋田犬。東京には秋田犬がウジャ/\いることになっています。そして秋田犬にも小型、中型、大型と三種あることになっており、犬の品評会にも三種の秋田犬がそれぞれ出品されて、別々に審査をうけるのである。
しかし、小型、中型は秋田犬というべきではなくて、日本犬というべきだ。耳が立って、シッポのまいた犬は日本の各地にザラにいる。むろん秋田にもいる。チャウチャウもそうだ。それらの中に大型秋田の血が一度や二度まぎれこんだにしても、これは秋田種ではなくて、単に日本種というのが当然であろう。
真の秋田犬とは何ぞや? これまた現代の神話の一ツなのである。秋田犬、秋田犬、と大そうな熱であり騒ぎであるが、本当の秋田犬とはこれです、という解答は東京の愛犬家を歴訪して廻ってもなかなか得られない。
しかし私は根気よくこの質問をくり返したものだ。そのうちに秋田犬というものもバクゼンたるリンカクだけは少しずつ分ってきた。そして秋田犬というものは大型だけを指すものであるが、これはやや絶滅に瀕していて、秋田県でも大館市という一地域にしか見られない。東京では日本橋のワシントンという犬屋に出羽号の何世だかのメスがいる以外には、血統の正しい大型は殆ど見かけることができないだろうという話であった。
一般に東京あたりで大型秋田と云われているものには、三河犬との配合が多いそうだ。三河犬に秋田をかけ合せ、その仔をまた秋田に、また秋田にと何回となくくり返すうちに、色や顔の出来が秋田に近づいてくるのだそうだ、この雑種は繁殖力が旺盛だし、テンパーに強い。そして仔犬の時だけはホンモノの秋田よりも立派だそうだが、結局ホンモノのように大きくなることはで
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