散歩にだしたが、その当時はすでに成犬の日本犬がコリーをいくぶん守る様子を見せてくれたところがコリーは日ごとにふとるのが目に見える犬だから一ヶ月のうちに忽ち日本犬を追いこして、生後四ヶ月ぐらいでずッと大きくなってしまった。こうなると相手の図体で強さを測量する日本犬には薄気味わるくて仕方がないらしく、遠慮深くなって、コリーの目の色をうかがい、甚しく懐疑的になっているのである。
 かなりよく訓練された、一歳半ぐらいのメスのシェパードが伊東に居って、その主人が時につれてきてコリーと遊んでくれる。まだ仔を生まないシェパードだが、母性本能というのであろう、実にいたわり可愛がってくれるものだ。川のフチを通れば自分が川の側に位置をしめてコリーをかばって歩くし、よその犬に会えばそッちの側に位置をしめて仔犬をかばう。よその仔犬をこんなにかばって遊んでくれる習性も、利巧さも、日本犬にはないものだ。
 小型や中型の日本犬は、犬同志だとむやみにケンカしたがるが、猫だのほかの小さな動物などとは仲良しになる習性がある。要するに臆病だから、相手が怖いためにケンカを急ぐオモムキらしく、敵意や実力のない仔猫などとは安心して仲良くなるもののようだ。むやみにケンカをしかけたがるのも臆病のせいだというのが見えすいていて、チャチな日本犬を飼うとガッカリするものである。
 支那種のチャウチャウという犬が、やっぱり日本犬によく似ている。根が同じものかも知れない。そして現在小型の日本犬と称するものには、チャウチャウとのアイノコも多い。臆病故の勇み肌も同じことで、日本犬以上にケンカをしたがる。敵に己れの存在の知られぬうちに、突然うしろから走り寄って尻にかみつくという日本犬もやらないケンカの手を用いる。存在を知られて正面へまわるともうダメで、ヨダレをたらしてむやみに唸っているうちに、クビの根ッ子をくわえられて二三間ふりとばされて退散する。
 ケンカをしたがる犬は弱虫の証拠なのである。またバカの証拠なのである。ケンカをしなければならぬ理由も必要もないではないか。ただ相手が怖いのだ。疑心暗鬼である。そしてそのようにバカで疑り深くて、飼い主のほかに信頼のおけない甘ったれた性質が、日本犬の番犬に適しているところであろう。但し、よく吠える点では番犬に適するけれども、真の敵と闘う力や勇気の点では疑わしい。どうも日本犬というものは実
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