劇が自分だけの所有でなくなった場合に何物になっていずこへ行くかという怪ホーキ星の進路のような物騒で予測しがたい問題がのこっているだけである。
 男の子は我慢と辛抱が大切であるから、宝塚は男が見ても面白いと分っていても、ジッと我慢して、わりこむことを避けるのが無難な方法には相違ない。しかし、せっかく男女同権になったというのに、そうまで卑屈に敵の意のままにしたがい、敵のセンメツ的な殺意や巧妙な戦術や一騎当千の暴力を敵対しがたいものと定めて事前に白旗をかかげるのも、どうかと思う。新時代の新風にしたがえば、男女は同権であるし、正義はこれを主張しても差支えないものであるから、
「男にも宝塚を見せろ!」
 というプラカードをかかげて銀座や皇居前を行進しても、婦人警官に襟首をつかんで堀の中へ叩きこまれるようなこともないかも知れん。とにかくいっぺんはプラカードをかかげて女兵隊の様子を見るところだろう。あわよくばこの機会に女兵隊の気勢をくじいて、男女共存共栄という方向に漸次転向してもらう。いっぺんは試みて敵の様子をうかがうだけの勇気と断行が必要らしいな。
 しかし、宝塚が「虞美人」というダシモノを選んだ
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