しく生きているのもホンモノの馬を使ったからでもあるし、またホンモノの馬を使いうるのでこの登場ぶりを発案し得たのでもあろう。とにかく慾の深い、むさぼッた使い方はしていないし、最も生かして使っている。ここの先生方はたしかに頭がよろしいな。敬服しました。
馬はよその土地の公演でも使えるかも知れないが、象は動物園を所有しているこの根拠の大劇場でだけしか使えないのかも知れない。しかし諸事に於て日本全体が不備だらけの敗戦直後の今日ではムリであっても、多少のムリも覚悟の上で象でも鯨でも公演地へ輸送する心構えは必要であろう。出演時間が十秒か三十秒のものであっても、その効果の必然性が算定されている舞台なら諸事に手落ちも手抜きもなく再演を期してゆずらないのが芸道の良心、芸術家の支えというものだ。しかしそのような本建築的な心構えはここの先生方には一番期待がもてるようである。とにかく単にコケオドシにホンモノを使うのではなくて、それを使う必然性や、効果的な使い方が実に正しく考案せられているのであるから、芸術はゼイタクである、ゼイタクでなければならぬ、ということの正しい意味を本質的に身につけている先生方に相違な
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