ってお客を待ってる様子だけれども、例によって他に人影は殆どなく、劇場と動物園のほかは全てのものが存在の目的も理由も失っている。だから、タダモノではないらしい立派な馬も仕方なくブラブラしたり逆上的に走りかけてみたり諦めてみたりしているし、美しい緑の乗馬服にピカピカした乗馬靴をはいてチャンとムチまで手にしている少女調教師も仕方がないから水道の蛇口を指で押えて噴水をつくッて馬にぶッかけて実用と娯楽の両面兼備のヒマツブシに熱中したりしている。
モッタイない話だなア。私は東京の馬湯もその他の馬場も知らないけれども、美しい乗馬姿にりりしく身を固めた美少女の馬係りがお客の世話をやいてくれる馬場の話などはきいたことがない。同じように美少女と動物を活用しても、大入り満員なのは劇場と動物園だけで、その他はどうしてもダメらしいや。
美少女と動物で思いだしたが、「虞美人」ではホンモノの馬と象を用いていた。春日野、神代両嬢が項羽と劉邦に扮して最初に登場する時は舞台の両側からホンモノの馬にのって現れる。春日野嬢はまさに帝王の様式の如くに白馬にまたがっていらせられた。
すべて芸術はガクブチだの舞台だのと限定や
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