中である。もっとも、ここの掲示場にたたずむ生徒たちは、たのしそうである。戦場の難民が占領軍の掲示場にたたずんでいるような全身に赤々と千里の斜陽をあびてる面影は全然ない。どこの世の掲示場にも拭いきれない生活の重さ暗さがジットリ影を落しているものであるが、ここだけは税金の相談は事務所へ、だの、火の用心だのと一応世間並のSOSがはりだされていても、拭いきれない生活の暗さや、背にしがみついた人生の重さは、たしかにないね。この掲示場へウカツにもたたずんだ私だけがただ一人の難民で、彼女らぐらい保護になれたアンチ難民的存在もないような気がした。
この事務所を一歩でれば、隣は大劇場の楽屋口で、その道の並木の下には十六七の娘たちが三々五々、またエンエンと勢ぞろいしてスターの楽屋入りを待っている。これこそは難民であろう。つまり宝塚の生徒は十重廿重にとりまいた難民たちによって手厚く保護せられているのであるから、これはまた奇怪なブルジョアで貴族で、これを徹底的な大ブルジョア大貴族と申すべきであるかも知れん。彼女らが歩く天下の道は全て難民が寒暑をいとわず献身的な保護に当っているのだ。そして手厚く保護せられた動
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