シュミーズ一ツでバレエの基本をやってればそれはまさに草木的なものです。一応容姿が平均しているのか、そうでもないのか、そういうことが念頭にかからないぐらい草木的なものだ。しかし子供の教室で、そろってヨソ見をしないということは、それだけのことでも珍しい部類なのかも知れないな。草木的にしか見えない生徒というのは、良い生徒、良い教室を意味しているのかも知れぬ。
 事務所の三階の階段を上った廊下が掲示場になっている。三階にはいくつかの稽古場があって、ここは一人前になった生徒たちの公演用の稽古場だ。生徒たちは稽古の往復に掲示場にたたずむ。稽古の日割りだの、何々さんと何々さんは何月何日の黒ン坊大会の審査員になって下さい、というのだの、税金の相談は事務所へ、という火の用心の札の同類のようなのもあった。それを見るまでは宝塚の生徒の税金のことまでは考え及んでいなかったが、なるほど彼女らは相当の多額納税者であるに相違ない。当節はどこに生々しい血痕のような黒旗のようなものが掲げられているか分らないから、女の学校の掲示場をのぞくにも真剣勝負の心構えを忘れると、胸をさしぬかれてしまう。セチ辛く、風雲ただならぬ世の
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