と切符が買えないようでは、とても男の子は割りこめない。

          ★

 八月の十七日といえば、どこの学校も夏休ミであるが、宝塚の予科ばかりはやっていました。見学に行ったら、ちょうど日本舞踊とバレエのお時間。ちかごろは日本中がバレエばやりらしく、知人を訪問すると、そこの娘が壁に身を支えて基本のお稽古をしている。同じことをやっていた。小柄のお年を召した女先生が杖をトントン突き鳴らしながら鷹のような鋭い目で一挙手一投足にきびしい注目を浴せている。修身の先生の厳格なのとちがって、芸道の厳格さというものは見た目にも美しいし、かえってホノボノとあたたかい救いを感じるなア。実際、睨まれると石になりそうなりりしい先生だった。
 基本というものが確立している西洋の芸術にくらべて、日本の芸道は手ほどきの法がゾロッペイだから、二ツを一度に並べて見ていると、なんとなくタヨリなさが身にしみる感じであった。先生が三味線をひいている。正面に生徒が並んで、立ったり坐ったり扇子をかざしたり歩いたりする。
 この動きの基本を定めるとすると、さて、いかなることに相成るか。眺めていると、そういうことが気にかかっ
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