にはない獣肉を食用し葡萄酒をのむから、人間の子供の生き血をのんでる等という噂もあった。そして物語の本には切支丹バテレン妖術使いウルガン伴天連。身の丈一丈二尺などゝ多くの怪人物が現れているけれども、そして、それが実在のバテレンの名に相違ないが、いずれもバテレンが酒顛童子のように人肉を食うというような架空な物語にすぎない。
正しい史実に「切支丹バテレン妖術使い」という名と行蹟をハッキリと残している人物はたった一人しか居ないのである。この人物を「金鍔次兵衛」という。その珍妙な名は物語の中の架空の人物のようであるが、却々《なかなか》もって、そうではない。外国側の記録にも、大村藩の記録にも破天荒の彼の行蹟がハッキリ記されており、のみならず彼が捕縛されたところには「金鍔谷」という地名が残り、長崎の地図が手もとにないから、正しい町名なのか、昔からの通称にすぎないのかは分らないが、長崎港外の戸町へ行って「金鍔」ときけば直ちに通じる通り、彼の足跡は今も明確にその所在を残しているのである。そこの山腹に現存する横穴の中で、彼は捕えられたのである。
地下へもぐった共産党の幹部にくらべると、金鍔次兵衛の方が
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