だようなのが私を訊問にきたので、おどろいた。彼は私を自分の詰所へ連行した。詰所といってもボックスがあるわけではない。公園の中の自然の立木のようなのに電話器がつけてあって、それ以外には特別なものは何もない。私が調べられている時にも電話がかかってきた。それから判断すると、いたるところの山の上や中腹などにこういうカンタンな詰所だか見張所のようなものがあって、そこから対岸や左右の山中や市街を望遠鏡で見張りあって、お前のところの公園のベンチに変な奴が膝の上の紙と港を見くらべている、取調べよ、というように注意し合っているもののようだ。私の挙動に不審をいだいたのは、ここの詰所の彼ではなくて、どこか遠方の山中から望遠鏡で見張っていた誰かであったようである。
 地図禁制の地域で手製の地図を見ていた私は、当然相当な取調べをうけるだろうと覚悟をきめたが、彼は私の旅行目的をきいた上で、私の所持の包みを調べ、それが図書館で古い史料を筆写したノートであることを確かめると、ただちに釈放してくれた。私が今日に於ても日本の海軍には陸軍にない親しみを感じているのも、このセーラー服の憲兵が物分りがよくて人を頭から罪人視する
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