、チャンと一日三合、けっして量をごまかして減らすようなことはしていなかったのですよ。
 特に津和野藩へ預けられた二十八名は選り抜きの信者でテコでも棄教の見込みのない筈の連中だったが、これすらも一日三合に苦もなく降参して拷問にも至らず棄教する者続出ですよ。
 私がこの本を読んでいたのは終戦にちかいころの、一日一合七勺、それが十日、三十日という遅配欠配の最中ですよ。実に異様でしたね。どうにもワケが分らんですよ。一日三合、それも白米であるという。それに降参してたくまずして棄教せしめるに至ったという。生ヅメの間へクギを差しこまれたり、雪の降るのにハダカで一夜坐らされても棄教しなかったという勇ましきツワモノたちがなんて哀れにも変テコな降参ぶりをしたものであろうか。まるで、戦争中の日本人は浦上切支丹の最悪の拷問以上の大拷問に平然と堪え忍んでいるようなものではないか。どうも、オレの方が浦上切支丹よりも我慢強いような気がしないが、変テコな話があるものだ。しかし、実にワガハイが一日三合の白米どころか、一合七勺のその十日三十日の遅配欠配にさしたる顔もせず、自分一人アメリカ向けに白旗をふって降参しようなどゝ
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