考えたこともありやしない。すると、オレはそんな偉い人物なのかな。しかし、どうも、一日に白米三合も食べていながら、腹が減って、腹が減って、どうしても神様を売らずにいられん、という妙な切支丹があるもんだとは、不可解であるな。まったく私は当時この奇怪きわまる史実に甚しくハンモンしたものでありましたよ。
 しかし、私はこのたび長崎に至り、チャンポン屋へはいって長崎の彼や彼女の例外なき胃袋に接し、十年前に見たそれらの胃袋の怖るべき実績をアリアリと思いだし、
「ユウレカ!
 ユウレカ!
 ユウレカ!」
 浦上も長崎のウチなんだ。あるいは長崎以上の胃袋かも知れないのだ。ワカッタ! オレが一合七勺の遅配欠配に我慢ができても、長崎の胃袋は三合ズツの完全配給に音をあげるのは当り前だ。
 実に歴史というものは、むつかしいものだなア。浦上切支丹が一日三合の配給になぜ神を売ったか。それは私が長崎浦上に単に旅行しただけでは分らない。実に長崎でチャンポンを食べてみなければ全然理解しがたい謎中の謎であったのである。
 長崎のチャンポン屋へ行ってみないと、浦上切支丹の棄教の秘密が分らんということを、拙者のほかの誰が見破
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