ないから、どうしても人間のために作られたものに相違ないが、案ずるに長崎チャンポンの法則として一度に一日ぶんのチャンポンを買って三度の食事ごとにここへ通ってきて三度目に食いあげる、なるほど大陸に近いだけのことはあるな、と考える。
しかし、その時、おどろくべきものを見たなア。学校帰りの十四五ぐらいの女学生三人組と、母親らしき女と十一二の男の子の一組が、ちょッとお八ツ代りにチャンポンを食いに来たらしき様子であったが、五六ぺん笑い声をたててお喋りしているうちに、みるみる古墳の山をくずして、三食分のチャンポンを一キレのカステラのようにやすやすと平らげてそこにカラのカナダライがなければまだ完璧に何も食べていないような顔でしたなア。実に私は目を疑ったね。おどろくべき女学生がいる。おそるべきオカミサンとその子供がいる。かかる子供やオカミサンの胃袋に満足を与えるために、その父親や宿六は他の父親や宿六の何層倍の汗水を流さねばならぬか。さらに涙をも流さねばならぬであろうよ。シミジミ怖ろしき者どもであるな。
ところがチャンポン屋に回を重ねて通ううちに、長崎の老若男女というものは実に一人のこらず同じような特
前へ
次へ
全45ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング