ところで、したがって、どんな家でも百年以上の歴史があって、小さな長屋の如きものでもそうであるから、内部へはいると何べんも何べんも修繕してツギハギのあとがあって、どの家の柱も板も真ッ黒だね。また、したがって、多くの道路が細い。そして、各々の家の住人たちも大がい何代も前から同じ一族が住みついて変ることが少いそうで、ハイカラの町だと思うと、どう致しまして、まことに市街も家も人間も古風ですよ。
「長崎にはパンパンが居ないんです」
宿屋の女中も料理屋の女中も云い合したようにこう云って自慢するのであった。なるほど、旅行先でこういう自慢をきいたのは長崎がはじめてでしたな。しかし、私は長崎駅へ到着したとき、待合室で数名のパンパンをたしかに見ましたよ、と云うと、
「それは佐世保から来るんです。長崎には居りません」
断々乎たる御自信であった。しかし、このパンパンなる言葉の解釈が長崎的で面白いのですよ。彼女らが断々乎としてその存在を否定しているのは、つまり街娼ということですね。
音に名高い丸山は昔から今に盛大に営業していらせられますよ。思案橋だの、見返りの柳だのと、若干怪しからぬ的々な鉱物植物が原子バ
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