要がないものだね。ここに一つの新しい温いものが天から降って住みついてるよ。もう誰もクロなんて言葉を云う必要がないし、そんな言葉の存在すら、なくなったなア。悲しみは、すでに、つぐなわれているよ。そして、この丘の上の空は誰の空でもなくて、実に明るい空だなア。
浦上は、もう明るいし、もう暗くならないのだな。
私が浦上の天主堂の丘の上で発見した新しい地図はそれだけでしたよ。
★
長崎の市街は金比羅山のおかげで助かったのですかね。とにかく山の端を外れた長崎駅や大波止の方、県庁などの少数の建物がいくらの幅もない一本の直線型に焼けただけで、長崎市のほぼ全部は昔ながらに、そっくり健在でした。
十年前に長崎へ行ったときは、大浦天主堂の真下のイーグルホテルというところに泊りました。なぜかというと、長崎旅行の手引きをしてくれた長崎出身の人が、長崎で一番特徴があるのはこの旅館かも知れませんよ、と云って紹介状をくれたからだ。
ここは外国のマドロス専門の旅館であった。それも、そう上等ではないマドロス相手らしいね。けれども当時は外国船の長崎入港ということが殆どなくなった時であるから
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