下げ]
死者(検視済ノモノ) 七三、八八四名
行方不明        一、八八七名
重軽傷者       七六、七九六名
[#ここで字下げ終わり]
とありました。
 また、天主堂の廃墟の建札には、浦上の信徒一万余名、死者八千五百名とありましたよ。死者の全数にくらべれば一割強にすぎないが、信徒にしてみれば危く全滅をまぬかれたような惨状ですね。
 天主堂の丘から四方を見ますと、小さな家がマンベンなく建ってはいますが、どの家の周囲にも目立つのは樹木のない空地の広さばかりですよ。それは一見して旅人の心を暗く重くさせますね。
 しかし、私はその丘の上に立ちつつあるうちに、私の心がだんだん明るくなるのに気がつきました。それはね。十年前には甚しく異境のような感じがした浦上の土が山河が、生き残りの樹木もなく冷めたい土の肌を寒々露出しながら、今度はバカバカしいぐらい親しみのあるなつかしいものに感じられたのですよ。
「もう、誰も、クロと云う人はいないだろう」
 クロという言葉を私に教えたり、その意味を云ってきかせたりした男の顔も女の顔も思いだす必要すらもないことだ。
 すぎた悲しみというものは問題にする必
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