つげなかったのは当然でしたろう。
 日本の地上に住んではいても彼らの天は日本の天ではないのだという異教徒の白眼視が百倍も強く彼らの身に感受されていたはずでした。私はその悲しさを浦上の人家や山河や樹木や畑の物にまで感じたのだもの。人の白眼視を百倍も強く感じているということは、それが彼らの意志や本心ではなくとも、彼らが自然に日本の空よりも、よその空の中に、自分の空を見るような現実が生れるに至るだろうということを、私がいつからか確信するようになっていたとしてもフシギではありますまい。人が疑るように、自分が似てくるね。人は弱く悲しいものですよ。
 彼らが自分の空だと思ってみたりしたこともある空の中から飛んできた飛行機が、彼らの天主堂の上で原子バクダンを落した。私が最初の一瞬に考えたのは、そういうことでした。それは私の思い違い、思い過しであるかも知れませんが、しかし、私が最初の一瞬にハッと思ったことは、とにかく、そういうことだったのです。そして、その原子バクダンが私の頭上にも落ちたのか、否、その原子バクダンを落した奴が私自身だったのか、何がなんだかワケが分らないような、奇妙キテレツな気持でしたよ
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