原の三藩も命令によって出動しました。
 そこで四藩二奉行所から出動した恐らく何万人という全員をもって、まず往還の通行を止め、半島の海から海に至る線を人垣でふさいでしまった。海と海の間の陸地といえば、今度原子バクダンの落ちたあたり若干の平地をのぞいて、道の尾の方も稲佐山の方も、山また山ですね。これを人垣でふさいだ。この人垣は一人一歩の間隔です。一人一歩の列で半島を横断する人垣によってふさいで、この列をくずさずに、ジリジリと半島の尖端、海の方へ追いつめて行く。夜になると、全員、一列のままピタリと止まり、止まった場所でカガリ火をたいて夜を明す。夜間に人員交替して、不寝番をたて、夜があけると、またジリジリと一人一歩の列をくずさず前進、夜にピタリと止まって、止まった場所でカガリ火。蛇やキリギリスは逃げられるが、ウサギやタヌキは驚いたろうなア。一人一歩の人垣を破らないと、ウサギもタヌキも海辺まで追いつめられてしまう。海の上は舟軍で封じていたのですね。こうして、実に三十五日という日数を費して、一人一歩の列をくずさずに遂に海岸線まで人垣が移動到達したが、次兵衛の姿はどこにもなかった。彼をかくまった小者
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