怪物を珍しがって集ってきたから、島民にとっても見なれた怪物ではなかったようだ。
大島の学校では野球がはやっているらしく、通学にグローブやバットをたずさえている男の子が多い。一方、セーラー服の女の子が時々カバンを頭にのッけて椿の並木を歩いている。妙テコリンの対照は、ひどく大島的でもあるし、日本自体のカリカチュアのようでもあったね。
この島は流れる水も湧く水もないし、米もない。しかしそういう欠乏は島民の生活からは分らない。どの家でも牛を飼っているし道路の上で牛の乳を搾っている。有るものがひどく豊富に有るように目立つだけで、無いものが無いように目立たないのは、太古の人の如く大国主的に大らかで健全なんだろうね。
物資がないと云えば、痛快にないね、観光ホテルでは、お客が食べたいものを注文するとそれから買い出しに行くというノンビリしたものであった。さればとて旅客がそれで不自由を感じるわけでもなく、ちゃんとそれが出来上った生活があって、要するに旅だ。大島には、いろいろな物資だのネオンだの大島銀座、ハブ銀座などはないが、コルシカやタヒチのような旅があるね。コルシカやタヒチへ行ったことはないけれど
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