う。
「ヘエ、まだですよ」と魚屋が一家総出でとびだしてきて、妙なヘッピリ腰で怖る怖る奥からぶらさげて来て、見せてくれたのが、なるほど、これは怪物だね。私が怪物に近づこうとすると、魚屋が慌てて、
「オットット、手をだすと噛みとられますよ」
長さ一米ぐらいの怪魚「カキザメ」という私が見たことのない怪物です。サンショーウオを平たくしたような奴で、全身をマムシの斑紋の大きいようなのが覆い、陸上の動物には見られないトゲのような怖ろしい歯がゴシャ/\生えてますよ。魚屋の土間に腹ばいになって人間を睨みつけて、物凄い口をあき、食い殺すぞという殺気マンマンたる形相を示します。せいぜい一米ぐらい、一貫から三貫までぐらいの小さいサメだそうだが、こんな怖るべき形相の魚を見たのははじめてであった。肉はうまいということだ。なるほど、そうかも知れんと思ったね。第一、面魂《つらだましい》がなんとも物凄くて癪にさわるから、是が非でもモリモリ食ってやりたいと思うね。切身を買ってきて大いに食うべきであったよ。着流しの村長はこういう怪物をわざわざ見せようとする親切をもっていた。私がこの怪物に呆れていると、野増村の人たちまで
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