いでも片道一時間かかるそうだね。私は行けなかった。視界二、三米という物凄いモヤにまかれて、とても歩かれない。おまけに熔岩原をわたってくるモヤだから人肌のように生あたたかいや。ちょッとゾッとしますよ。このモヤも火山の一味で、火山と同じように怪しき活動を行う魔物のような気がしたね。アッというまにベールをかけられ、モヤモヤと襟クビへ、フトコロへと忍びこまれて、にわかに視界を失ってモヤの中にただ一人沈没している。おまけに目かくしした奴が生あたたかいのだから妖しい気持だね。ホウホウのていで熔岩の上から這い降りて、御神火茶屋へ同行の青年に尻を押されて這い登りましたよ。気の弱い話だが、まア熔岩原の上で生あたたかいモヤにまかれてごらんなさい。
しかし、その日、どんなにモヤが深かったかというと、翌朝八百トンの貨物船が元村西南方一キロぐらいの岩礁上に坐礁してチョコンと乗っかっていましたよ。モヤのせいだ。まだ陸には間があると思って全速で走っていたら、一つの岩礁を乗りこし、勢い余って次の岩礁に乗りあげて止ったそうだ。機関部に大穴があいたそうだね。大きな船が救助にきていた。観光船はノンキなもので、橘丸はちかづ
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