と見るから、蘇我氏に関する限り、その表面に現されていることは、そのままでは全然信用しないのである。
 ともかく、大和を中心にした夥しい古墳群(ミササギも含めて)は小心ヨクヨクたる現代人のドギモをぬくに充分な巨大きわまるものだね。玄室の石の一ツの大きさだけでも呆気にとられるね。それらの古墳は、どれが誰のもので、誰の先祖だか、実はてんで分るまい。記紀が示した系譜なるものが、実は誰が誰の祖先やら、人のものまでみんな採りいれたり、都合のわるいのを採り去ったりしているに相違ないと思われる。
 しかし、大そうな豪族がたくさん居たことだけは確かだね。その子孫はどこへどうなったものやら。ヒノクマの帰化人などもどこへどうなったものやら私自身がそれを探りだす能力はとてもないね。
 八木で電車を降りるとき、五尺五寸ぐらいもあって肉づき美しく、浄ルリ寺の吉祥天女そっくりの白いウリザネ顔のお嬢さんを見た。あの土地で、否、あの土地へ着いた時に見たから、甚しくおどろいたね。しかし、幻でした。なぜなら、その時以来は目を皿にして行き交う男女の顔や形を見つづけたが、昔をしのぶ男女の顔形はついに再び見ることができなかったか
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