車にのって動く見込みがないからソテロとしては田舎豪傑の政宗でやってみる以外に手がなかったかも知れないが、そうカンタンに外国がだませるツモリの政宗が、つまり田舎豪傑であったのである。
彼の本心は、支倉一行が出発しないうちから、すでにイエズス会に見破られていた。司教のセルケイラはイエズス会総長に宛てて、政宗の本心はヤソ教ではなくて、通商であり、彼の領地へフランシスコ会の僧が続々くるようになると、家康の怒りをかって政宗は滅亡するだろう、と手紙している。一行の出発前のことである。この予言はまさに図星であったろう。後手専門の田舎豪傑は二三年たってそれにようやく思い当ったのである。家康が長い年月苦心した日本統治対切支丹、日本統治対海外貿易という難問題は、その結論が家康の断となって表明されるまで、田舎豪傑には分らなかったのである。しかしバテレンたちには分っていた。家康のみならず、信長、秀吉、家康三代にわたる日本統治者に共通の悩みであったのだ。秀吉は切支丹の布教を外国の日本侵略の第一段階と速断したが、保守家の家康は自身に侵略精神が稀薄であるから布教を侵略と速断するような軽率なところはなかった。彼は実
前へ
次へ
全50ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング