教国と宗教ぬきで貿易できる見究めが立たなければ、にわかに切支丹を国禁しなかったであろう。政宗にはそのような用意や研究は何もなかったようだ。彼は当時のオランダと旧教国が国交断絶、敵対関係にある事情についても正しい認識がなかった。そしてその手落ちによって、つまり彼がエスパニヤ国王に提出した条件中にオランダとの断交を確約する文章がなかったために、彼の最も希望する新エスパニヤ(今のメキシコ)との通商は拒否せられてしまった。支倉がまた輪をかけた能なしで、アチラの事情に即応して主人の手落ちを自分の一存で修正し主人の熱望する通商条約をまとめるだけのユーズーがきかなかった。
政宗の本心は宗教をダシに新エスパニヤと貿易したいことだった。一方、紹介役のソテロは、日本の布教がイエズス会に牛耳られているのが不満で、自己の所属するフランシスコ会にも司教をおかせ、自分が司教になりたい考えであった。両者の希望は食い違っているが、田舎策師の政宗も、日本渡来のバテレン中で最大の策師たるソテロも、それは充分心得ていたであろう。要するに両者の希望は別々でも、相助け合って両者の希望を実現すれば足るのである。幕府がソテロの口
前へ
次へ
全50ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング