らヒッツジンという分裂病の薬ができるそうだ。どっちも近々御ヤッカイになりそうで恐縮しました。
鯨にはイワシを吸って生きているヒゲクジラと深海へもぐって大きな魚を貪食している歯クジラと二種類あって、マッコー鯨という奴は歯クジラの中でも、特に悪食の奴だそうだ。マッコーを捕えると、たいがい目の周囲のあたりに大きな吸盤のあとがついてるそうで、つまり深海でイカやタコの大物と大格闘している跡を歴然と残しているのだそうだ。また、大洋漁業の標本室にはマッコーの腹から出たヤシの実があったが、戦争中、海兵の靴が片方だけ、腹から出たこともあったという。油断のできないクジラである。
マッコーは群をなして泳いでいるが、時々一匹だけ泳いでいるのがある。これを「はなれマッコー」といって、マッコー鯨の大物はこれに限るそうだ。
マッコーの群は常に強力な牡クジラに誘導されている。年老いて精力衰えると、若く血気な牡クジラが老いたるクジラを追放して王者となる。追放された老鯨が「はなれマッコー」となるわけで、最も年老いた鯨だから時に五十尺にも及び、マッコーの大物はこれに限るということだ。同じような習性は、猿にもあるようだ
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