の油は良質であるばかりでなく、セミクジラの三倍もとれるし、何よりもマッコー鯨に限って群をなして泳いでいるので、大量捕獲に便利だそうだ。日本近海にはこのマッコー鯨が多いのである。
 リューゼン香というものも、このマッコー鯨の体内に限って存在するのだそうだが、この物自体が天下名題の名香かと思ったら、そうではないそうだね。それ自体は悪臭の強いものだそうだ。これに香料をしみこませると発散せずにいつまでも香気を保つ作用があるのだそうだ。それで外国の高級香料にはリューゼン香が使用せられるのだそうだ。
 私が鮎川の大洋漁業で仕込んだ智識の中でコレハ、コレハとおどろいたのを二三御紹介に及ぶと、ラケットのガットはクジラのスジで作るものの由。私が二年ほど前、双葉屋へガットを代えてもらいに行ったら、原料不足だから本物のガットがありませんぜとナイロンのガットで間に合わされたね。原料不足の段ではなく、日本はガットの原料国なのである。ただこれを製する設備がないので、原料をアメリカへ送ってガットにして逆輸入するのである。戦争前から、そうなんだとさ。バカバカしい。またクジラの血液から胃カイヨウの薬ができるし肝臓だかか
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