伊豆半島の半分のミチノリもないチッポケな半島だが、往復八千円だ。旅館から駅まで七百メートル、歩いて十分の距離、東京なら百円もしないね。二百五十円である。窓を板でクギづけにした自動車の値段なのさ。
こういう半島のドン底に鎮座している鮎川だから、署長さんは人間相手の仕事が殆どないのである。
「クジラと鹿の番人みたいなものですよ」
と呟きながら、私たちを案内するために肩から拳銃の吊り皮をブラ下げる。規則によって、やっぱり一人前のカッコウだけはしなければならないそうだ。
「先日、署長会議で上京しましたが、日比谷の交叉点で、ゴーストップの信号をまちがえて、こッぴどく叱られましたな」
ゴモットモ。ゴモットモ。
私たちは大洋漁業へ行った。仙台からここまで、行く先々、会社も人間も、東北の人々と、東北の人々によって作られた会社であった。大洋漁業だけは、東北の人によって作られた会社ではなかったのだ。フシギなものだね。たッたそれだけで、もう、違うのだ。都会と東北の違いというものが、どことなしに会社の隅々ににじみでている。会社に働く人の大半は、同じように東北の人だろうけれども、なんとなく違う。牡鹿半島
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