で腰かけるのが気持がわるいような車だが、それでも二台のうちでは良い方の車なのである。往路では月の浦の上で四十分間故障。復路では山林中でシャフトが折れて三時間立往生。幸い代りのシャフトを用意していたから(チョイ/\故障やるから用意は万全だ)どうにかシャフトをつけ代えたが、新しいシャフトがちょッと長すぎるのである。そこでシッカリはまらないのだ。ようやく三時間目に動きだしたが、カーブにかかると、ギギギギーと音がして車輪が外れる。ちょッと動くと、また外れる。なんべん外れたッけねえ。泣きましたよ。夜になって救援の自動車がきてくれたが、この方はもっとボロボロの車で、窓のガラスに板をクギでうちつけてあるという古世代的な怪物。石巻のタクシーはこの二台しかないのである。往復に前後八時間ちかく自動車に乗っていたが、すれちがった自動車が一日中に三台しかないのだ。一台は赤いユービン車。次は材木をつんだトラック。次にバス。このバスの車掌に鮎川へつき次第石巻へレンラクして救援車をさしむける手配をたのんだのである。こう自動車が通らないのは、交通安全で結構だが、時に甚しく心細いね。自動車が珍しいのだから、また高いや。
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