登り降りにウンザリしていたのだ。ところがこのテッペンの本丸跡に護国神社が出来ていたね。参拝の子供たちがさぞ悩まされたことだろうよ。軍人だの役人は罪なことをするものさ。三百五十年前の片目の田舎豪傑だけの智恵も分別もないのだね。
彼が生れて育った少年時代は、信長が天下を席捲し威名カクカクたる時代であった。信長の威風や逸話は事ごとに馬よりも速く奥州の山奥まで届いていたのだろう。彼の戦争ぶりやコンタンを見ると、信長の逸話的な方法に甚大な影響をうけて育ったコンセキがあるね。二十四になってもザンギリ髪の異形をしていたところなど、少年時代の信長をホーフツさせる珍話だろう。二十四にもなったら、もうちょッと威儀を正して然るべきだが、そこが田舎豪傑たるところだ。もっとも幼児の時に天然痘で片目がつぶれたそうだ。ヘタに威儀をはって片目のニラミがヤブニラミに見えては困るだろうから、ザンギリの異形によって片目をひきたてるコンタンだったかも知れないな。そういう化粧法的な心得や戦略にはヌカリのない田舎豪傑であった。
時代のせいではあるにしても、信長に似せようという心掛けは上出来であったが、同じように信長の方法をふ
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