国的な植物地帯へ次第に踏みこんで行きつつあるような気持にさせられる。むろん南国的な植物はこの半島にはないけれども、南へ南へと南下しつつある明るさは同じものだし、北は北なりに、北の浜木綿や北のビンロー樹があるような気がするのであった。
牡鹿半島というところは名の通り野性の鹿が今もすむところだが、山は高いところでも四百五十メートルぐらいの変テツもない山林つづき。ところが、半島全体が何という岩だか知らないがまるで一ツの石でできたようなところだそうだね。仙台から塩竈、石の巻、塩竈神社の例の石段でも、石の巻の民家の勝手口のドブ石でも、みんな牡鹿半島から切りだした石なんだね。そして全国的にザラに見かけることができるような石だね。というのは、墓の石だの、石碑の石の何分の一かがこの石ではないかといかにもそう思いつくような石なのだ。あるいはスズリの石にも似たのがあるような気がする。青みをおびたやわらかそうな石で、見るからに石碑にして字をほりこむに手ごろのような石なのである。この地方へくると、板の代りにも石を使い、建築にも道路にも石という石がみんな牡鹿半島の石さ。神戸のミカゲへ行くと、塀といわず道といわ
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