法を用いていた。大謀網にくらべると、外見では仕掛の手がこんでいるように見えたが、小魚専門の女性的なもののようだ。大謀網の方は一度に何万匹というブリを一とまとめに追いこんだり、大きなマグロ、マンボウ、なんでも、はいってくる奴をそッくりつかまえるという豪快なものだ。松島のは可愛いいイケスのようなところへ小魚を丁重に誘いこむという、策略的で芸がこまかい大奥の局が案出した漁法のようなものであった。所変れば品変るであるが、いかにも松島という大奥の局や女中のピクニックむきの風光に似合いの漁法であった。

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 石巻、牡鹿半島、金華山。いかにも北の国に来たれりという思いですね。ところが、妙なものですね。北は北なりに、南国があるのですよ。石巻から出発して渡波《ワタノハ》港、ここが牡鹿半島の南側のノドクビに当るところだ。自動車は山径《やまみち》を湾にそうてグルグルと迂回しつつ半島を南下する。例の支倉出発の月の浦、荻の浜、大原、白浜と南下して、ついに南端の町、鮎川に至るまで、ちょうど伊豆半島を南下すると同じように、行くにしたがって明るく、ユーカリ、楠、蘇鉄、浜木綿、ビンロー樹などの南
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