あいにく冬期は観光船が欠航中であったが、一艘だしてもらう。海上はひどい寒風で、泣かされたね。内海の遊覧コースを通らずに、馬放島の外側を通る。なるほど外海の松島は相当豪快だ。しかしいつまでたっても似たような島々を眺めて通るというだけでは一向になんのこともないものだ。
私はむしろ松島湾内の海が、ノリやタネガキの養殖に利用されているのを見たのが嬉しかったのである。案内の人は、どうもノリシビが広くなりすぎて、と恐縮そうなことを云ったが、とんでもないことです。馬放島や桂島の海水浴の適地をのぞいて、至るところノリとタネガキの養殖に用いて可なりですよ。だいたい松島めぐりというのは、どんなに方々見て廻ってもみんな同じ風光だ。松島そのものの風光は代表的な一ツ二ツでタクサンだね。むしろ恵まれた湾内の大部分を資源に利用する方が、松島めぐりの観光にも変化がつこうというものだ。いつまでも「ああ松島や松島や」ではありませんや。東海道の海では大謀網というものを仕掛けて魚をとるが、松島の海では、それに似てはいるが、もっと手のこんだ八幡のヤブ知らずのようなものを海中に仕掛け、魚の周游性を利用してイケスの中へ誘いこむ方
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