ず石という石がミカゲ石だね。牡鹿半島の石は、非常に大きな、たとえば公園の記念碑のような一枚石をカンタンに道路用などに用いているのが特色さ。
 私が牡鹿半島を南下したのは、鮎川という南端の漁港へ行くためだ。鮎川といったって鮎がとれるわけではありません。ここは鯨とりが専門の港なのです。金華山といえば鯨と思いつくのは常識ですが、その金華山沖の鯨を一手に捕っているのが鮎川町です。皆さんは御存じかも知れませんが、私はこの地へくるまでこんなところに捕鯨専門の漁港があることを知らなかったのです。
 むかし、むかし、紀州に覚右衛門とかいう捕鯨の大親分の大金持がいた話は物の本でよんだことがあったが、今まで捕鯨といえば南氷洋、プロ野球でオナジミの大洋漁業とか日本水産というところが大いに活躍している程度のことしか知らなかった。
 第一、私は戦争中、イルカとクジラの肉には散々悩まされた記憶が忘れがたいのだ。銀座へんの食堂へ行列して洋食を食う。ビフテキだのコロッケだのと云うのが、みんなクジラだのイルカの肉だ。食ったが最後、二三日鼻のマワリに臭気が残って、思いだすと吐きそうになる。そのために私はコンリンザイ洋食屋
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