美しい島々に海水浴場をひらけば好評をうけるのは当然だ。またこの美しい海でヨットだのボートだのをたのしむこと、そのようなことの方がむしろ真に愛されるものとなるだろうね。
塩竈神社というのは、実に景気のよい神社であった。伊勢の神様をはじめとして、たいがいの神様が甚しく景気がわるいというのに、塩竈神社は景気がすごいや。まず驚くのは白衣に赤い袴の神様に奉仕の娘さんがタクサン雇われていることだね。まるで境内で鹿を放し飼いにしておくような要領で、この神社の山上高くて広々した境内のあッちこッちに、白衣赤袴の娘さんの幾群かが庭掃除をしていたり、サイセン箱をのぞいていたり、散歩していたり、放し飼いにしてあるね。たッた一人の神主すら満足に食えないような時世に、ここだけは実に盛大なものさ。
なんしろ安産の神様だ。戦争に負けたってビクともしないや。人類ある限り人類とともに共存共栄しようという絶対的な神様なんだね。人類とともに、否、人類の苦痛とともに、かね。無痛分娩という調法な術が行われるに至ると、この神様もついに主たる御利益を失うに至るらしい。目下は安産にからまるモロモロ、たとえば結婚式にまでさかのぼッて
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