湾内はその港内まで、船の通る道をのぞいて、みんなノリシビだね。そして頭の上には海猫というのが啼き舞っているね。見たところはカモメのようだが「ニャーオ」といって猫と同じように啼くのさ。
 松島と牡鹿半島ひッくるめて国立公園に申請しているそうだが、どうも土地の人というものは他との比較を知らずに自分の故郷をほめるから困るね。牡鹿半島はとても国立公園というようなものではないね。伊豆半島でもそれにまさること数倍だね。ヘンテツもない半島さ。それよりも至るところにタネガキを養殖したりノリシビを突ッ立てる方が利巧ですよ。
 松島の方は、昔ながらの名所だから却って人は低く評価しがちだが、牡鹿半島の景観にまさること数倍さ。それにしても「ああ松島や松島や」というような観賞精神は現代に於ては稀薄だね。塩竈では松島の一ツの馬放《まはなし》島というところで海水浴場をひらいたら、大評判、大好評であったそうだ。なるほど、松の生えた岩山の間に白砂の海水浴に適したところが所々にあって、ここで泳いだらさぞ気持がよさそうだ。現代人の遊楽は、単に風景を眺めることではなくて、それをスポーツに利用することを喜ぶ傾向にあるんだから、
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