稀れな安食堂で毎日ムリヤリ食わされたナマリだもの、よッぽど安いものなんだ。以後われら貧乏なる日本人は、七面鳥と心得てナマリを食うにかぎる。拙者の舌に狂いはないです。七面鳥とナマリは同じものさ。アメリカ人がよろこぶわけだよ。拙者なぞは京都にゴロゴロしていた一年半というもの、ひでえ貧乏ぐらしだと思っていたが、実は毎日毎日毎日毎日クリスマスを祝っていたんだね。ブルジョアの生活とは何か。実に分らないもんだ。
 また、このへんの静かな湾内に(アンマリ静かでもないようだがね)タネガキというものを養殖してアメリカへ輸出しているね。塩竈、渡波、それから牡鹿半島のどこかの湾で、もう一ツこの養殖場を見かけたように記憶する。つまり三年もたつと食べられるカキに育つそうだが、送りだすタネガキというのは肉眼で見えないようなものだそうだね。このタネガキは、アメリカの海でも育つそうだが、あッちの海でタネガキ自体は目下のところ出来ないそうで、まア当分は輸出をつづける見込みがあるらしい。
 ノリのシビが盛大に突ッたッてるのは東京湾だけかと思ったら、塩竈から松島めぐりの観光船の道中がノリシビのなかを漕ぎわけて行くのさ。塩竈
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