か、理解に苦しんでいるのである。あれこそは絶好の機会だね。戦争だろうと地震だろうと、なんでも利用できるものは利用することさ。すべてその機を知らねばならぬ。その道の専門家は機を見て為すべき計画は常に胸中になければならないね。それが専門家というものさ。戦争の焼跡を利用して、都市計画を実施し、大道路を新設したり、工場地帯、緑地帯、住宅地帯を区劃する。焼けなければそう完全に急速に行うべからざる工事ができたではないか。戦争で焼かれたマイナスを、これで幾分のプラスにしうる。男にだまされて貞操を奪われても、その教訓を生かして同じマチガイをくり返さぬ用に立てれば、それもプラスさ。地震でつぶれたり焼かれたりしても、再び同じような焼けたり潰れたりする家を立てて平気な精神は賀すべきではないですよ。こりることを知らねばならぬ。それにこりて再び同じ愚をくり返さぬという役に立てることができれば、禍は変じて一つのプラスです。当り前のことじゃないかね。実に当り前すぎるじゃないか。一般庶民の生活や精神は惰性的でこりることを知らなくとも、政治家とかその道の専門家はこりることを知らねばならぬ。禍を利用してプラスにすることを
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